王立スペイン造幣局の歴史
目次
中世にまで遡る造幣局の歴史
セカとは、もともとイベリア半島を支配していたアラブ人たちの言葉、貨幣の金型、型抜きを意味する「シッカ」から派生したものです。中世のスペインでは、コインが金属から型抜きされる場所、つまりコイン鋳造施設がそう呼ばれていました。歴史に彩られたマドリード造幣局、現在の王立スペイン造幣局(Fabrica Nacional de Moneda y Timbre-Real Casa de la Moneda)の発祥を辿るには、中世にまで遡らなくてはなりません。造幣局の印〈M〉が刻印された最初のコインは、15世紀中頃、カスティーリャ王エンリケ4世の時代に登場しました。封建制度のもと、貨幣の発行は王の特権でしたが、領主たちもまた貨幣鋳造を行うことができました。加えて王室は、一般人に貨幣鋳造権の貸し出しを行い、ときには教会や修道院に特権として認めることもあったため、15世紀末までは国のあちこちに多くの鋳造所が存在しました。当時、マドリード造幣局はそのなかの一つに過ぎず、スペイン・ハプスブルグ王朝の時代に入って徐々に重要性を増したものの、ほかの造幣局が持つ特権を享受するには到りませんでした。
激動の17〜19世紀を乗り越えて
続くスペイン・ブルボン王朝で改革が始まりました。17世紀初頭、フェリペ3世の時代から賃借物件としてウセダ公爵の所有となっていたマドリード造幣局が、1718年に至って王の手に渡され、造幣局は王室に組み入れられました。18世紀、カルロス3世の支配下で、王立造幣局は素晴らしい時代を享受します。著名な彫刻家トーマス・フランシスコ・プリエトを抱え、頂点を極めたのです。19世紀初頭、フランス革命からナポレオン皇帝のときまでは国中に政治の嵐が吹き荒れ、ナポレオンの兄がスペイン国王となって、造幣局は危機的状況を迎えました。17、18世紀以来現在のセゴビア通りに位置していた建物は部分的に閉鎖されて、古い建物は廃墟同然となり、中断を余儀なくされた活動もありました。緊急策として、一部がほかのビルに移されましたが、それで万全とはとてもいえませんでした。1833年以来、何度も提出されていた新施設建設の提案は、1855年になってようやく着工となり、女王イザベラ2世の手によって1861年に新施設が落成となったのです。現在のプラザ・デ・コロン(コロンブス広場)に建てられた新造幣局は、内庭を囲む4棟の大きな建物で構成されていました。施設の前には、庭を隔て入り口となる2棟のビルが建っており、後にレコレトスの遊歩道が改築されて、カステラーナの遊歩道まで繋がりました。1893年には王立図書館と博物館がオープンして、プラザ・デ・コロンはそれ自体が個性を持った環境を作り上げ、マドリードを代表する光景の一つとなりました。
国内および外国紙幣の製造も開始
プラザ・デ・コロンの建物には当初から切手工場も入居しており、それぞれが独立した組織で異なる経営のもとにありました。摂政女王マリア・クリスティーナは、1893年8月29日の王室令をもって、Fabrica Nacional de Moneda y Timbre(FNMT:国立貨幣・切手工場)の名のもとに二つの組織を統一しました。以後1940年代まで、FNMTでは新技術導入に必要なものを除いては、変更は一切行われませんでした。紙幣は1906年から英国で印刷されていましたが、第二次世界大戦によって定期的供給が停止したため、1940年4月5日付けの勅令でFNMTに紙幣印刷の権利が認可され、同年10月21日、最初に発行されたのは、表面にカルロス1世の肖像を掲げた1,000ペセタ紙幣でした。その実物は現在、造幣局博物館に展示されています。この勅令は、のちの1941年6月24日付の勅令で完結するに至ります。ほかの印刷業者を抑えて、国内および外国両紙幣の優先的製造権が認められたのでした。二つの勅令によって証券書類部門が設立され、1945年には国立印刷局が併合されました。紙幣の製造開始によって、同工場で証券供給の必要性が高まった結果、ブルゴス市に製紙工場が建設され、1944年7月に稼動を開始します。1952年1月には初の透かし模様入り紙幣が製造されました。
新社屋にて多様な事業を展開
事業規模が拡大する一方で、プラザ・デ・コロンの施設は老朽化が進み、新たな建物の必要に迫られます。現在の施設の敷地は1945年に取得されたもので、建物は1964年に竣工しました。工場は縦300m、横84.6mの長方形の敷地に建ち、ホルヘ・ホアン通り、ドクトル・エスケルド通り、ドゥケ・デ・セスト通り、マイクエス通りの四つの通りに囲まれています。両側に大きな八つの柱がある正面玄関は、ホルヘ・ホアン通りに面し、数段の階段で続いています。一方、車両の乗り入れ、積荷作業用の入り口は、ドゥケ・デ・セスト通りに面しています。この敷地を囲む四つの通りのうち、一番知られているのは最も交通量の多いドクトル・エスケルド通りの入り口で、博物館の入り口もここにあり、正面玄関のドアと似た造りとなっています。強固な土台の新社屋は、セキュリティも製品管理も万全で、今後、その重要性が増していくでしょう。その証拠にパスポート、国家機密文書などがここで製作されており、その他、宝くじ、サッカーくじなど、国が行うゲームや賭け事の用紙なども取り扱っています。
民主制が復活し、記念貨幣の鋳造へ
1975年、フランコ総統の死去に伴い、ホアン・カルロス1世が即位して44年ぶりにスペインに王政が復活しました。彼が国家元首に就いたことは、単にFNMTがコインと切手の図柄を変更するに留まりませんでした。即位した王は、自身の政権を直ちに完全な民主制へと移行させることに着手したのです。政治的自由を認められたスペインは、世俗的国家へと姿を変え、市民生活のすべての面で強いられていた道徳指導が破棄されました。それまで禁止されていたゲームなども、一定の規制のもとで行われるようになりました。1977年6月の省令では、ビンゴが承認され、FNMTがビンゴ用カードを製造することが認可されました。この作業は造幣局に大きな息吹を与えました。
カードの高い需要に対応するため労働力を増やす必要が生じ、面倒な取扱い手順を整備しなければなりませんでしたが、造幣局の利益も跳ね上がりました。1985年に発売が開始された「プリミティブ宝くじ」も、ビンゴほどではないにせよ、造幣局の経営に大きく寄与したのです。民主主義を確立したスペインは、国際舞台での存在感が増し、1986年に欧州経済共同体(ECC)加盟に調印しました。それに伴ってパスポートを早急にヨーロッパ基準に合わせる必要が生じ、外見上の変更のみならず、安全性により重きを置いた新たなパスポートが発行されました。この時期はまた、コロンブス新大陸発見500年祭、バルセロナ・オリンピック、セビリア万国博覧会など国際社会関連の数々の祝賀行事や記念式典が目白押しで、これまで幾度となく持ち上がったものの日の目を見なかったアイディアが再び浮上しました。精巧な仕上げの特別なコインを鋳造するための部門の設置です。
国有企業となりネットワークも世界中に
世界において新たな位置を確保したスペインの企業各社は、国際社会に自国の製品を売り出したいという想いに駆られるようになりました。FNMTも同じく、自国製品の紹介にせよ、すでに経験とノウハウを持つ企業への参加という形式にせよ、国際社会への商品供給の可能性を探っていました。しかし国立である造幣局は支出、投資ともに厳しく規制されており、こうしたプロジェクトを進めるには不向きでした。1989年、FNMTに関する新たな条項がいくつか承認されて国有企業となり、経営に柔軟性が与えられました。この変更によって拡大基調が整い、世界中にビジネスネットワークが形成されて、自社開発・製造のIDカードが各国で販売されました。またチップ内臓のカード製造も始まりました。“新たな情報技術が社会と政府の関係に変化をもたらす”との認識のもと、1996年にFNMTが「電子取引認証のための公的センター」設立のプロジェクトに取り掛かりました。今日、同センターが発行した認証は莫大な数に達し、文書の入手やビジネスが最高のセキュリティのもと、電子取引で行えるようになりました。
ユーロ圏を構成する一員として
1998年の5月、過去10年来スペイン最大の願望であった欧州単一通貨への参加が実現しました。この目標が設定される前の1996年、FNMTは将来の欧州通貨となる貨幣と紙幣を検討・定義する会議に参加しました。試験段階は満足のいく結果で完了し、1998年に貨幣鋳造、1999年に紙幣印刷がそれぞれ開始されます。この作業はFNMTの歴史において新たな任務を意味していました。しかし立ちはだかってきた課題はこれだけではありません。そこでその年、法的ステータスが変更され、名称がMoneda y Timbre-Real Casa de la Moneda(FNMTRCM)に変更されたのです。FNMT-RCMの歴史は、恒久的な進化拡大のプロセスであり、その過程で次々と出る難題は、これまで成功裏に解決されてきました。近年の実績を例にあげると、2019年の流通貨の総鋳造数は、11億4千枚にも上りました。コレクター向けコインについては、プラド美術館200周年記念カラー銀貨が、実に46万枚鋳造されました。プルーフコインは、年間で合計211,426枚が鋳造されました。長い歴史に裏打ちされた経験と現在の活動を見るとき、その事業と組織が誇る価値ある人材および最先端技術によって、FNMT-RCMはこれからも成功の道を歩み続けていくことでしょう。
南の人
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