英国「新50ポンド券」 紙幣研究家・植村 峻氏による解説 | 泰星コイン<創業1967年>

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英国「新50ポンド券」 紙幣研究家・植村 峻氏による解説

2021年09月10日
 

目次

はじめに

2021年、英国では、昨年の新20ポンド券に続きデザインを一新した新50ポンド券の流通が始まりました。本ページでは、植村 峻氏(紙幣研究家、一般財団法人印刷朝陽会 事務局長)による同銀行券の解説を掲載します。

イングランド銀行、最高額の50ポンド券を発行
裏面にはコンピュータ科学者の肖像を採用
< 紙幣研究家・植村 峻 氏 >

  
 

イングランド銀行は、既に2016年に5ポンド、2017年に10ポンド、2020年に20ポンド券をポリマー化しており、今回2021年6月23日に最高額面のポリマー製の50ポンド券を発行して、一連の改刷券発行を終了した。

 

50ポンド券の表面には、ほかの券種と同様、右に女王エリザベス2 世の肖像、中央にイングランド銀行の建物、紋章を描き、裏面には科学者のアラン・チューリング(Alan Turing 1912 - 1954)の肖像を採用している。チューリングは、ケンブリッジ大学卒の優秀な数学者、コンピュータ科学の先駆者で、暗号解読者でもあり、第二次世界大戦中にはナチスドイツ海軍の暗号「エニグマ」の傍受、解読に成功して、英国軍の勝利に大きく貢献した。戦後は英国物理学研究所で初期の電算機研究開発に着手、演算処理用のアルゴリズムの開発を成し遂げ、現在のコンピュータ技術、人工知能の基礎を開発、確立した傑出した人物であった。今回イングランド銀行がチューリングの肖像を選定したことは、彼が現代コンピュータ社会、デジタル社会の先駆者であったことを、国民に再認識してもらうという意図が大きく働いていたと思われる。

 

しかし彼は、その偉大な功績にも係わらず、同性愛者であったため、当時の英国の法律によって猥褻罪で有罪となった。そして、化学的去勢手術を受けたものの、世間の目は厳しく、1954年にはついに青酸カリ自殺で死去した。その後時間の経過とともに、有罪判決に対する政府への抗議が殺到、2009年には政府が公式謝罪し、さらに2013年には死後ではあるが女王が恩赦を行っている。

 

裏面のチューリングの肖像の出典は、国立肖像画美術館所蔵の1951年に撮影された写真であり、背景の図柄は1936年に「ロンドン数学協会紀要」に掲載された数式と図表、彼が設計した初期のコンピュータACE(自動計算エンジン)の試作マシン、第二次世界大戦中にエニグマ暗号を解読するために使われた計算機ボンベの設計図、ACE の進捗レポートの図面などが描かれている。また中央下部の細い帯状のベルトには、バイナリーコード「0と1」で構成されたチューリングの生年月日が表示されている。

 

また肖像下部には彼のサイン、さらに1949年のタイムズ誌に掲載されたインタビューにおいて彼が述べた「これは来たるものの予感に過ぎず、何が起こるかの影だけだ」と、将来のコンピュータ技術の発展を予測させる彼の言葉が印刷されている。

 

 

50ポンド券に採用された偽造防止技術は、これまでに発行されたほかのポリマー銀行券とほぼ同じである。表面左の大きな透明窓開き部分には、最上部に銀色に輝く立体的3Dイメージの「女王戴冠式の王冠」が入っており、お札を傾けると立体感があり、その周囲はレインボー模様が現われる。

 

 

中央部分には、科学者チューリングに因み、「コンピュータの回路」がホログラム箔で貼付され、その左の楕円形部分には、女王の肖像が白色グラビア印刷の細かい網点で表現されている。

 

  
 

最下部には、お札を傾けると「Fifty」と「Pounds」の文字が交互に現れるホログラム箔が入っている。なお、左下隅には、銀行のシンボルである「ブリタニアの座像」が、金色インキで印刷されている。

 

  
 

女王の肖像の下部分には、複写が困難な連続凹版マイクロ文字で「£50」の模様が印刷されており、上部には肉眼では見えないが、紫外線を照射すると赤と緑色が交差した「50」のUV発光インキによる模様が印刷されている。右下の小型の透明窓部分には、「50」の数字がエンボス加工されている。

 

 

裏面の右上部には、サンフラワーの花弁が赤色のフォイル・パッチで表示され、そのすぐ右には空押しエンボス加工により、視力障害者用のマークが上から下まで4カ所施されている。また透明な窓部分には、表面とは逆のホログラム箔や女王の図柄を観察できる。新50ポンド券は、146 × 77mm で、他の券種に比べると縦横共に大きくなっており、高額券らしい品格を備えている。

 

 

ポリマー紙幣の製造コストは高いが、耐用年数が長いため、結果的にコスト削減に寄与するほか、英国で多発していた紙製銀行券の偽造に対抗して、偽造が困難なポリマー製に変更したものである。なお、紙製の旧50ポンド銀行券は、ほかの券種同様に、2022年9月末に市中での通用が停止となり、その後は金融機関においてのみ交換が可能となる。

 

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